「映画録音部」カテゴリーアーカイブ

映画録音には必ずお化けが出るのココロだ

映画やレコーディングでは、よく変な音が紛れ込むんだ。そう、お化けのささやきだ。
録音部を15年ほどやっているけど、現場で聞き取れた明確な幽霊の声(言葉)は、多分、二回くらいかな。

芥川の羅生門で子供の幽霊が出た!

川崎ヒロユキ監督の『羅生門』で録音部をやっていた時、飢餓で苦しむ町娘が、雑草を口に入れながら、
「飯、食いたい、食いたいよぉ」
と瀕死の状態で演技中のこと。
そこは防音の行き届いた地下にあるカラオケスナックにセットを組んでいるので、スタッフ以外の声は聞こえない。本番中だから、スタッフも声を出さない。迫真の演技に、スタッフも聞き入っている。
「食いたいよぉ・・・・」
囁くような小声の演技だ。
僕はショットガンマイクを近づけられるだけ近づけている。超ベテランの照明技師さんが、マイクが入りすぎないか睨んでいる。
「食いたいよぉ・・(子供の声:食いな!)」
その瞬間、僕の心臓はバクバクバクバク! 周囲を見渡すけど、防音のドアは締め切られ、子供なんていない。
監督のカットとOKの声がして、僕はレコーダーを停止する。
すぐに巻き戻して(言い方が古いなぁ)、問題の箇所を確認。
「食いな」
確かに入っている。
仲良しのカメラマン荒木ちゃんを呼んで、
「なんか出た気がする。11秒のところ」
業務ヘッドホンで聴く荒木ちゃん。
「あ、出ましたね。うん、出た出た」
と、あっけらかん。そう、映画の現場じゃ、よくあるのだ。

2011年5月11日:Vシネ『羅生門』のワンシーン。お化けの声が入ったのだ。
一番最後のあたりです。

ちょっと生の音だとわかりにくいので、最新技術でノイズを除去してみたよ。

ノイズを除去した音声、あれ、子供(みたいな)の声の前に、男性の声が聞こえてきたなぁ。

ノイズを除去してみたんだ。あれれ、女優の息遣いの直前に、男性の声っぽいのが聞こえてきたなぁ。

格安ヘッドホンはパット交換のココロだ

先日、たまたま見つけた役安ヘッドホンが、業務用のスタジオヘッドホンに匹敵する音質だと紹介したところ、高校時代からの音楽仲間で、今は世界的な発明技術者のサム田くんが、さらにその音質を向上させる工夫を発見したんだ。さすが、サム田くんだ。

イヤーパッドを交換せよ

Panasonic RP-HT40(RP-HT24の折りたたみ式)700円。それにゼンハイザーPX200用イヤーパッド498円に交換。

発見してくれたのが、ゼンハイザーというプロ用音響機器メーカーのヘッドホンPX200の交換用イヤーパッド。純正品は非常に高価だが、互換品が何社からも出ていて、そのうちのAmazonで売っていた1組498円に交換した。元から付いているスポンジを外して付け替えるだけ、作業は数分だ。

密閉度が上がり、外音がかなり軽減

このパッドに交換するだけで、耳との隙間がかなり減って、その分だけ音が外に逃げずに耳に入ってくる。すると、微妙な音まで聞き分けられるようになる。無改造のソニー製スタジオヘッドホンMDR−CD900STに負けない音になったぞ。
本当は耳全体を囲うようなパッドがあれば、そちらの方がさらに音が良くなるはず。

明日はラジオ収録なので、現場で使ってみて、さらにレポートしよう。

三味線の音は録り易いのココロだ

先日、端唄の集まりで、新兵器の立体音響H3-VRで録音したんだけど、楽にいい音で録れましたね。楽器と唄とあるので、普通は唄と楽器は別に録る方がベターなんですが、適当に(というか経験的にいい感じに)セッティングしただけで、後は遠隔で音も観測しぜに録音したのですが、いやぁ、すごくいい音。こんなに楽なマイクは、本当に初めてですね。

端唄の名曲:三下りさわぎ『恋はパクパク』バージョン

先日も書きましたが、作詞した端唄向けの歌詞を三下りさわぎで、芸者衆も交えて唄ったのですが、いやぁ、素敵素敵。本当にノイズレスですね。
ラジオで放送したら、ここにも公開したいと思います。

三味線の音は人の声に近い

さて、録音しやすかった要因は、何と言っても三味線の音が人の声に近い周波数成分だからだと思います。録音ではドラムが非常に難しくて、低くて大音量のバスドラムがあったり、超高音のシンバルがあったり。ですから、ドラムを録音するには、それぞれ違うマイクで録って後で音量を調整したりします。
そういう意味では三味線は、簡単。極端に大きな音は出ないし、小さすぎる音もない。
つまり、日本の楽器は、シンプルでいいなぁのココロでした。

正しいヘッドホンがないと録音に失敗するのココロだ。

映画の録音部が使うヘッドホンについて解説しますね。
いい音を録音するのに、いいヘッドホンが必須です。どんなにいいマイクを使っても、ヘッドホンが悪いと正しいセッティングやボリューム調整ができません。

正しい音、綺麗な音、好きな音について

音は、人によって年齢によって好みが非常に分かれます。また、どのくらいのボリュームで聞くかによっても、ヘッドホンの選び方が違ってきます。
最近は数十万円なんてイヤホンもあって、選ぶのが難しいですよね。そんでもって、まず、基本から解説します。

音には、『正しい音』『綺麗な音』『好きな音』の3種類

『正しい音』とは、原音に近い音のことです。原音に近いというのは、元の音があって、マイクがあって、録音機があって、再生機があって、ヘッドホンという順番に音が変化していきます。高性能なマイクというか原音に対して適切なマイクで、適切な録音をして、録音されたものをそのまま再生して、それをヘッドホンでそのまま聞くことができる。これが正しい音です。
わかりますかね?
簡単に言えば、録音する場所で聞いた音と同じ音に聞こえるのが『正しい音』です。

次に、『綺麗な音』というのは、デジカメで風景を撮ると実際の見た目より綺麗に見えることがありますよね、あれと同じで原音は大したことがなくても、そのヘッドホンで聴くと綺麗に聞こえるというものです。単純にいうと、耳障りな音は消し、心地よい音は大きくするヘッドホンです。高価なヘッドホンは、こういうタイプの製品です。

最後に、『好きな音』というのは、個々人の好みの音ということです。例えば低音がズシンズシン響くようなヘッドホンです。 多くのメーカーが、他社との差別化をするには、この種類のヘッドホンを研究開発することになります。

ここで考えてみてください。正しい音のヘッドホンを作るとしたら、どのメーカーのどの製品でも同じ音になりますよね。違いは掛け心地くらいになっちゃう。それじゃ商売にならないので、各社とも特徴を出します。どんなにへぼい音楽でも、それで聞けば『綺麗』『好み』という製品です。

もうおわかりのように、僕たちプロは、そんな『綺麗』『好み』では仕事をしません。『正しい音』が出るヘッドホンが必須です。

正しい音のヘッドホンは、汚い音が聞こえる

さて、実際に正しい音が出るヘッドホンの音はどんな感じでしょうか? 端的に言えば、汚い音が聞こえます。汚い音というのは録音の失敗で生じる音のことです。逆の言い方をすれば、正しいヘッドホンで汚い音が聞こえたら、それは録音の失敗です。
ですから、僕らは現場で、汚い音を無くす努力をします。その汚い音を見つけることができるのが業務用ヘッドホンとかスタジオヘッドホンと呼ばれるものです。
ソニーのMDR-CD900STというのが(トップの写真)、業界標準です。ただし、トップ画像のMDR-CD900STは改造してあって、より汚い音を見つけやすくなっています。

正しいヘッドホンで聞いて、自分の耳を標準化する

正し音(汚い音のない音)を正しいヘッドホンで聞くと、耳が鍛えられてきます。どんな音が正しくて、どんな音が汚いか(録音に失敗しているか)が分かるようになります。言い換えると、耳を鍛えないと、いい音(正しい音)を聞き分けられません。つまり、心地よい音(綺麗な音や好きな音)に騙されて、録音の失敗に気づかないのです。それを編集にかけると、汚い音が水面に浮かぶゴミみたいに、じわじわと上がってくるのです。これが録音の失敗です。現場では気づかないけど、失敗しているということです。

正しいヘッドホンを普通の人が聞くとがっかりする

さて、世の中には非常にチープなヘッドホンだけど、業務用ヘッドホンと同じ音がするものがあります。
『Panasonic RP-HT24(スタジオ仕様のロングコード&ボリューム付き)1200円程度』『Panasonic RP-HT40(携帯用折りたたみ式)700円程度』
この2製品は化け物です。後者は生産終了で、在庫があるだけだそうです。僕は予備に複数本買い溜めしています。
さて、この製品のレビューを読むと、ほとんどが低い評価です。
あはは、『綺麗な音』『好きな音』で耳が慣れている人には、ダメなヘッドホンに聞こえるんですよね、だって、汚い音が聞こえるから。でも、上記のように、このヘッドホンは『正しい音』を出してくれます。
唯一、このヘッドホンの弱点は、音が若干小さいことかな。ドライバという音が出る部分がちょっと小さいからかもしれません。それでも、業務用のレコーダーから大音量で音を出しても、歪まずいい音(正しい音)を出してくれます。素晴らしいヘッドホンだと思います。
僕だけでなく、エンジニアの評価も非常にいいヘッドホンです。
なので、もし、録音に興味がある、仕事にしてみたい、講演や演奏で録音しなければならないという人は、このヘッドホンを音をやや大きめにして聴きなが録音してみてください。このヘッドホンでいい音に聞こえれば、録音は成功です。

Panasonic RP-HT24(スタジオ仕様のロングコード&ボリューム付き)1200円程度

映画録音部を15年やってわかったこと

録音の世界はなかなか奥が深く、理解するには想像力が必要です。カメラの露出も似ていますが、音は目に見えないので露出以上に説明が難しいですね。

人間の耳の特徴は聞き分け能力にあり

人間の耳はよくできていて、雑踏の中でも聞きたいものを聞き分ける能力がありますね。しかも、聞きたい音以外が聞こえなくなるほど、選別する能力が高くなっています。
ところが、マイクはそうなっておらず、単純に入っておく音を素直に記録します。これが厄介で、人間は生で聴いている音は選別できるのですが、マイクを通した音は聞き分けが難しくなります。ですから、マイクで録音するときは、人間の耳で聞き分けられる音質で録る必要があります。これが録音部の仕事なのです。もし、万能なマイクがあれば、録音部は必要なく、カメラの上にマイクを置いておけば良いのですが、実際には、そんなマイクは存在せず、録音されたものは、録音の仕方で大きく違う素材になっちゃうんですよ。

録音の3要素とは

繰り返しになりますが、録音された音は、人間が生で聴いている時の音とは違って聞こえます。それには『録音の3要素』が関係していると思います。

要素1:マイクの距離

1つ目は『マイクの距離』です。一番重要です。どんな高性能なマイクを使うよりも、適切な距離に置かれたマイクの方がいい音に聞こえます。遠くから音を録るのは実は非常に難しく、特に人の声は遠くから録ると「遠くの声」に聞こえます。例えば、カメラはアップで撮っているのに、声が遠くに聞こえては不自然ですよね。
それから、マイクが遠くなるにつれて、2つのノイズが大きくなっていきます。1つは環境音です。どんなに静かな部屋でも何かの音がしています。さらに、どんな場所でも音の反射があり、例えば喋っている声もマイクに直接届く音の他に、何かに反射してきた音が聞こえてきます。2つ目の残響音と呼ばれる音です。つまり、マイクの距離が離れるほど、環境音と残響音が聞こえてきます。
もう1つはマイクや録音機器の電気ノイズです。サーというホワイトノイズです。マイクが離れると距離の2乗に比例して音が小さくなります。声を収録するときにマイクの距離が2倍になれば音は4分の1になっちゃうので、マイクのボリュームを上げなければならなくなります。するとホワイトノイズが大きくなります。例えば口の前10cmが適正なマイクと1m離すと、音圧は100分の1(-2dB)になり、ノイズが100倍(+2dB)に増えます。
つまり、マイクが離れると、環境音、残響音、ホワイトノイズの3つが重なって、一気に聞き取りにくくなります。

要素2:マイクの向き

2つ目の要素として、マイクの向きが重要です。マイクは大きく分けて2種類あって広い範囲を同じような音に録れる『無指向性マイク』と、望遠レンズのようにターゲットを絞って録音する『単一指向性マイク』に分かれます。
指向性マイクは、マイク前方の狭いエリアの音だけを録音できます。ですから、上記の環境音と残響音を拾いにくくなり、結果的に狙った音が大きく聞こえます。さらに、単一指向性マイクはもともと感度が高いものが多く、ちょっと離れてもボリュームを上げる必要がありません。ですから、ほいワイトノイズも入りにくいわけです。それでも、離れれば離れるほど、上記の『マイクの距離』理論が目立ってきて、音が悪くなっていきます。
さて、そんな便利な単一指向性マイクには大きな欠点があります。マイクの向きが合っていないと急激に音が悪くなります。理由は『マイクの距離』と同じで、マイクの芯(狙った方向)から外れると急に音が小さくなるので、マイクのボリュームを上げなければなりません。すると環境音と残響音も大きくなっていきます。特にマイクの芯方向からの残響が極端に大きくなるので、芯を外した音はエコーがかかったような音になってしまいます
一方の無指向性マイクとは何でしょうか? ほぼ芯のないマイクのことで、胸につけるピンマイクが代表的なものです。電話のマイクも無指向性のものが多いようです。この無指向性のいいところは、適当にマイクを設置しても音質が変わらないことにあります。その代わり『マイクの距離』の影響を大きく受けます。つまり、無指向性のマイクは口元に近いほど音が良くなるマイクです。
このマイクの指向性を知らないと、ノイズだらけの聞きにくい音になってしまいます。

要素3:マイクボリューム

さて良い音で録音するための3つ目の要素は、ボリュームです。録音の世界もデジタル化されて、デジカメと同じように露出オーバー(白飛び)に弱くなりました。つまり、大きい音が入ってくると『バリバリ』と音が壊れて、何の音だか、何を喋っているのか分からなくなります。
そこで、録音ではメーターを見ながら適正な音量に調整することが重要になります。ビデオカメラや携帯のボイスレコーダーは非常に優秀で、この音量調整を自動でやってくれて、しかも高品質な音で録れています。ですから、素人がプロ用の録音機器を使って録るよりも、ビデオカメラや携帯のボイスレコーダーに任せた方が綺麗な音になることがほとんどです。
さて、適切な音量って何でしょうか? 実は非常にむずかしい。映画だと、遠くの音は遠くに聞こえたいし、ささやき声はささやきに聞こえたいですね。テレビ番組の音はそこまでシビアではないので、胸元のピンマイクで一定のレベルで録れレバ合格です。

煮え切らない書き方でごめんなさい。
プロ用の録音機で収録する場合、まず、大きすぎると音が壊れて使い物にならないので、それは避けます。一方、ボリュームを下げすぎてしまうと、編集時にボリュームを上げることになります。すると、先ほどの環境音・残響・ホワイトノイズの3つも同時に上がってきます。いわゆる汚い音になります。
さて、ここで問題なのは、仮に録音時に適切な距離、適切な向きで録音したとしても、音量が足りないと環境音・残響・ホワイトノイズが大きくなってしまうということです。
わかりますかねぇ?
環境音・残響・ホワイトノイズは、どんな場所でも必ずあります。環境音と残響は録音スタジオならほぼゼロですが、それでも存在します。適切な距離と向きで録ると、環境音・残響が小さくなるだけです。でも、録音された音が小さければ、それを大きくしようとすると環境音・残響・ホワイトノイズも一緒に大きくなるのです。

つまり、録音時の適正ボリュームというのは、編集時にボリュームを上げずに済む音量ということになります。でも、実は、これはそれほど難しくありません。このマイクは口元から何センチでボリュームいくつ、と決めてしまえば良いだけです。ですから、ラジオの収録スタジオは、ほぼ、そうなっていて、調整なんてほとんど必要がないのです。ピンマイクも同じで、ほとんど調整が必要ありません。
でもね、映画の現場は、そうはいかない。なぜなら、役者が下手だから。うまい役者ならボリューム調整はほとんど要りません。ところが下手な役者は、声の大きさがまちまち、急に叫んだと思ったら、急にウイスパーボイスになる。同じボリュームじゃダメなんです。特にダメなのがウイスパーボイス。ボリュームを上げなくちゃいけなくなるので、環境音が上がってきます。残響も増えます。足跡や衣摺れにも負けちゃいます。
下手な役者は、本当に囁かないと囁き声にならないのです。プロの役者は普通の声量で囁き声が出るし、そういう感情が作れます。下手な役者ほど、本当に怒らないと怒った気分にならないし、本当に囁かないと囁いた演技ができない。
この辺りが録音部的な役者の評価なんですが、それがそのまま映画の演技に現れて、一般的な役者の評価と一致しています。

H3-VRレビュー(2)喫茶店で環境音を録る

千葉の中途半端な田舎町の駅前ですが、SEIKODOという喫茶店があり、ここのコーヒーが非常に美味しいのですよ。もちろん自家焙煎、店主の気合が伺える。ここでH3-VRのテスト中なんだ。

H3-VRを持ち出して遊び中

店中、焙煎機の音であふれている。BGMは小さめ。
ここで環境音の録音テストをしている。
どのくらいのゲイン(マイクボリューム)がいいのか、キーボードを叩く音とのバランスなど、映画の録音を想定して実験中。

H3-VRは机の上に置いて録音しても気にならないね

さて、実際に録音を始めているけど、なんとも言えない可愛いボディーなので、みんな気にならないみたい。アロマポットみたいに見えるなぁ。
これまで、いろいろなマイクを使ってきたけど、これほど環境に馴染むマイクも珍しいですね。
普通のマイクは、棒状なので、録る向きが気になるというか、マイクを向けられている方向が分かっちゃうので、それが場の空気を緊張させるんだけど、H3-VRは全然大丈夫だなぁ。これもマイクとしては面白いと思いますね。

H3-VRは本当に人間の耳で聞いているのに近いぞ

さて、環境音をいろいろ録ってみて感じているのは、人間の耳で聞いているのに本当に近いということ(バイノーラル再生)。おそらく、ノイズレスだからだと思います。
マイクゲイン(マイクボリューム)をどのくらいにするかが、録音の最重要なポイントなのですが、ノイズが少ないので、環境に応じた好きなゲインにできるのが嬉しいですね。
他のZOOM製品のマイクゲインは、ボリュームのメモリで6〜7割くらいが美味しいのですが、たぶん、このマイクもマイクゲインで60〜70がいいのでしょうねぇ。60だと環境ノイズが-36dB以下になるので、編集時に取り除くのが楽です。この状態でマイクから50cmでの人の会話がピーク-6dBくらいになるので、ちょうどいい感じです。
上の写真はゲイン80と相当大きなボリュームになっていますが、自然な感じで録れています。

H3-VRは自立するのがいい

さて、実施に街中で使っていて一番良いと思ったのは、マイク自体が自立しているということです。普通のバイクだとスタンドが必要だし、マイク付きレコーダーでもやはりスタンドが必要です。これが意外に人の目を引くのと、録音の妨げになります。先ほども書きましたが、マイクの方向が録音には重要になるので、何を録るのかをはっきりさせないといい音が録れません。しかし、H3-VRの場合には、ただ机の上に置いておくだけでなんでも綺麗に録れます。狙いは後(編集)で決めればいいのです。これは非常に有難い!

H3-VRレビュー(1)

立体音響(アンビソニック)マイクのH3-VRを一晩使ってみて、とりあえずのレビューです。

低ノイズで高感度マイク

まず、さすが最先端のデジタルマイクだけあって、これまでのアナログ音響機器とは比べ物にならないほどの低ノイズ&高感度なマイクになっているぞ。アンビソニックじゃなく、普通のステレオマイクとして使っても遜色がない。これは放送品質というか、映画の録音でも、他の名機と呼ばれるマイク+レコーダーに負けない品質だと思う。それが3万4千円なのだから、いやぁ、びっくり。

H3-VRは、収録後にマイクの向きを自由自在に変えられる

映画の撮影現場でも活躍しそう。例えば2人の役者が向かい合って会話するシーンで、二人の間にH3-VRを置けば会話が綺麗に録れる。それだけなら普通のマイクと同じなのだが、H3-VRは編集時にマイクの向きを変えられる。これがすごい。
これがなぜ良いかというと、映画のロケ先では、スタジオと違って様々な環境音が溢れている。エアコンの音だったり、屋外の自動車だったり、工場が近いと唸りが聞こえるし、飛行機も来る。
そんな状況で無指向性のマイク(全方向からの音が録れる)には、そんな雑音がどんどん入っちゃう。だから、映画の現場ではショットガンマイクという狭いエリアだけ録れるマイクを使うんですよ。エリアが狭いから雑音も減るわけです。でも、エリアが狭いから、上記のような2人の会話だと、台詞ごとにマイクの向きを変えないといけない。これが結構大変で、職人芸になるのです。
でも、H3-VRならマイクを固定しておいて、編集時に喋っている方へマイク方向を変えれば良い(音のフォーカスを合わせるって感じ)だけ。まぁ、編集が大変になるわけですが、実際には大したことはないですな。

H3-VRのファームウェアに不具合あり=メーカー開発中(2019/03/08現在)

さて、出たばかりのH3-VRですが、ファームウェアにバグがあって、起動時にハングアップすることがあります。これはメーカーに確認済みで、現在、ファームウェアの調整中とのこと。近いうちに改良版を出すそうです。

どんなバグかというと、設定項目『リミッター=オン』かつ『(再生時)バイノーラル=オン』になっていると起動時にハングアップすることがあります。僕もなんどもハングアップして、メーカーに問い合わせて、上記の回答をもらいました。SDカードを刺さなければハングアップしない気がしますけどね。
何れにせよ、メーカーが修正中なので、待ちましょう。大したバグじゃないので。

ラジオ番組の編集をPro Toolsでやってみた

音の編集アプリは様々あるのですが、その王様がAvidのPro Tools。音の関わる人で知らない者はいないはず。

小生は、エフエム福島で、レギュラー番組『ふっくん布川の光リアル道』という番組の作家&演出&出演&編集納品をやっているんだが、これまではAdobeのAuditionというアプリで行ってきた。このアプリは映像編集ソフトとの相性がいいので使ってきたのだ。

Pro Toolsは快適だったがここが惜しい

ラジオの収録システム(録音機材)を見直して、ダイレクトにパソコンで収録することにするのだが、その機材のコントロールを含めて考えた場合にPro Toolsが急浮上となったんだ。

そこで無料版のPro Tools(ラジオ編集はこれで十分)を導入して1話分を編集して納品してみた。もともとAvid製品の癖というか操作思想はなんでもショートカットキー(つまりキー操作)でやるというもの。Avidの映像編集アプリは使っていたので、そのあたりのお行儀は分かっていて、Pro Toolsを触ってすぐに使えたのはラッキーでしたよ。
そんでもって、音のレベル調整やコンプレッサーの使い心地が非常に良くて、人生で初めてコンプレッサーの概念がよく分かったのが収穫でしたね。

さて、実際にプロとしてラジオ番組を編集して納品までやってみると、いくつかの惜しい箇所が見つかりました。
1つは、やはり音楽編集のために突き詰められていて、ラジオのような長尺用にはあまり練られていない。無料でオンラインストレージが用意されているんだけど容量は1GB。1時間番組を素材を入れた瞬間に溢れてしまってアウト。単にアプリの動作を遅くする要因にしかなっていないのよ、とほほ。しかも、オンラインストレージとの同期をオフにする方法が見つけられないぞ。

さらに、ラジオ編集では、何分何秒になんという楽曲を流したか、コーナーの頭はどこか、などを放送局に登録するための『キューシート』というのが必要になるんだけど、AdobeのAuditionには、それを助ける機能が付いていて、マーカーに『曲紹介』などと入れておくと、それがCSVファイルとして出力できて、それをちょっと加工すれば放送局に出せる形式になるのだ。さらに、このマーカーポイントはWAVファイルにも書き込まれているので、放送局側でWAVファイルから情報を取り出すこともできるのだ。

Pro Toolsのフィルター類は魅力的だが落とし穴も

これがPro Toolsのコンプレッサー画面だが、フィルターのかかり具合がグラフ上で確認できる。これが非常に便利というか直感的で、音質を壊さずに適切な音圧にすることが可能だ。ただ、これも音楽用なので、放送用の『放送レベル』に合わせるための機能じゃないので、設定値の最適化はなかなか難しかった。同様の機能はAuditionにもあるが、数値のみで設定するので結構難しい一方で、放送用の設定値があったりして、意外に楽にできる。

一方で、Pro Toolsのフィルター(エフェクト)は独自路線で、他のアプリと共有しにくい。その点、Auditionのエフェクトは世界標準の規格になっているので、映像編集のFinal Cut Pro XやAdobe Premiere、AfterEffectsなどで同じエフェクトを使える。つまり、映像編集から音編集への引き渡しが楽なのだ。映像編集で音を加工する場合に、いちいちAuditionを開かなくても、ほぼ同じことができるのだ。そして映像編集で手に負えない音編集になればAuditionを立ち上げればいいということになる。

結論はPro Toolsは使わない、理由はここ

さて、結論はPro Toolsは使わないというのが結論だ。音楽編集であれば使うべきかもしれない。外部機器との接続でPro Toolsはバージョンの制約が大きい。立体音響まで作ろうとすれば、使用料が年間10万円コースになってしまう。低いバージョンでは音声入力のチャンネル数も限られてしまう。それでいてオンラインストレージはどのバージョンでも1GBしかなく、ラジオ編集には全く寄与しない。

その点、Auditionは無料版はないが(期間限定試用はできる)、音編集に関しては最先端のVRコンテンツにも対応している。音楽編集としては使いやすいかどうかは僕にはわからないけど、映像編集の音、ラジオ編集にはAuditionが最適だと、今のところは考えている。

もちろん、Logicなど有名DAWアプリ(音編集アプリ)を使ってみないと、何が最高かはわからないけど、ラジオ編集においてはAuditionがプロのやりたいことが全部入っていると結論することができる。

ラジオ番組収録のシステムを見直すぞ

福島エフエムのレギュラー番組「ふっくん布川の『光リアル道』」の収録のシステムを大幅に見直すことにしたんだ。

これまでは、ZOOMのF8nで録って、それをMacで編集していた。
映画撮影用に最適化しているマルチトラックレコーダーF8nは、様々なバックアップ機能があって、収録の失敗が最小限にすることができる一方で、直感的な操作が難しいのと、ラジオや音楽演奏を収録する時に必要な機能がほとんど搭載されていない。

ZOOM H6をオーディオインターフェースに

ZOOM社から、非常にコンパクトな4+2チャンネルのレコーダーが発売されている。H8nを使う前には、H6で映画の録音をしていた。

このH6はもともと音楽用に作られていて、音楽用のフィルターも入っている。操作は非常にシンプルで、録音技師でなくても使えるのが特徴だ。
ラジオ収録では、最大で6本のマイクを使うので、最低でも6チャンネルの入力が必要となるが、H6は4チャンネル+オプションで2チャンネルの合計6チャンネルの入力を備えている。
このH6をパソコンにつなぐと、パソコンに6チャンネルの音を送る(オーディオインターフェースにする)ことができて、音楽編集アプリで同時録音も可能だ。ただ、残念なことにパソコンのオーディオインターフェースにするとH6自体のSDカード収録はできない。

収録時の声量変化に応じるには?

ラジオ収録では、出演者が自由に喋るので、マイクワークが非常に困難になる。マイクワークというのは、しゃべり手の声量に応じてマイクの距離を調整する事だが、基本的には固定マイクなので、映画の録音のように録音技師がマイクを近づけたり話したりする事ができない。

声量はミキサー(H6やF8n)のボリュームで随時調整することになるのだが、これが非常に難しい。6人も同時に喋る場合には、調整が追いつかないこともしばしば。そこで、収録後の編集時に調整し直すことになるのだが、これが非常に時間のかかる作業となる。

実際にはコンプレッサというフィルターを使って自動調整するのだが、手間であることは事実だ。そういった後処理を極力減らすのが編集時間を節約する事になると同時に、音質を下げないためのポイントにもなる。

H6の入力コンプレッサが優秀

そこで、収録時にコンプレッサをかけてしまうのが、録音スタジオの当たり前なのだが、F8nにはコンプレッサが入っていないので、今回からH6を使ってコンプレッサを収録時にかけておくというのが、今回のシステムの見直しの目的だ。

H6には簡易のコンプレッサが入っていて、「普通」「ボーカル」「ドラム」の3種類のプリセットが用意されている。コンプレッサというのは、小さな音はボリュームを上げ、大きい音は上げるというのを自動的に行うものだ。その係具合が3種類よういされているのだ。

実験的に使ってみたところ「普通」にして収録すると、おそらくラジオでちょうど良い感じになると思われる。

明日が収録日で、ふっくんこと布川さんの番組を録音する。楽しみである。