仲の良いプロデューサーから連絡が来て、有名な殺人事件の映画化の話が舞い込んできた。
僕は大学で、犯罪学、刑事政策、法医学、被害者学、刑事訴訟法などを「前3」として、恐ろしく真面目に勉強した。前3(ぜんさん)というのは、教室の最前列3列目までを陣取る学生のことだ。つまり、くそオールAを狙う真面目学生軍団のことである。
その真面目さは、法医学の授業で、期末の試験の前日に、教授が僕の所に来てノートを貸してくれ、と言われたくらいだ。講義で教えた箇所と内容を知りたかったらしく、僕のノートで単位取得の問題を作るのだそうだ。大体、法医学の授業の終わりには、必ずと言っていいほど教授に食らいついて質問していて、家族が医療関係者だったり自分自身が獣医を目指していたこともあって、医学的な知識もあったからか、教授が私の質問を楽しみに待っているということもあった。
ゼミ(研究室)は刑事政策といって、犯罪者の処遇の研究をしていた。刑務所訪問などもした。刑事政策は学問というより実務に近い学問で、実務者をゲストに招いた授業も多かったし、指導教授が警察等にパイプがあった。犯罪学会だったか被害者学会か忘れたが、横浜母子殺害事件(歯科医が家族を殺して出来たばかりのベイブリッジから投げ捨てた事件)が発覚した直後に、その学会に教授の顔で出してもらって、警察庁の警視正だの、よくテレビに出ていた心理学者(小田教授)、裁判での心理鑑定の精神科医など、様々な指揮者、実務家に取材ができた。 編集部デスクが、取材先の名前を見て驚いていて、それまで下働きっぽかった私は、事件取材にかり出されることが増えた。それでオウム事件などを担当したわけだ。
犯罪映画を製作する
卒業してもう30年も経ってしまったので、頭の中はちょっと古くなっているのだが、大きな殺人事件、マスコミが連日、謎解きを繰り返していた事件なのだが、その事件を担当した警部さんの手記を原作として映画化する。
その手記を読み込んでいるのだが、昔取った杵柄というか、色々出てくる専門用語や訴訟手続きは、どれも懐かしくも、未だに変わらない部分がほとんどで、これなら良い作品を作れるだろうと思った。
非常に分厚い手記なので、読み込みには時間がかかりそうだが、非常にいい編集がされているので、原作としては非常にありがたいものだ。
さて、大手配給会社の名前も出始めているので、自分がどれだけ関われるのかは疑問ではあるが、逆言うと、おそらく映画関係者・脚本家の中で、私ほど犯罪学・法医学・被害者学に精通している者もいないだろうから、ある意味、適役なんだろうと思う。
仲が良いプロデューサー氏が、私に白羽の矢を立てたのは、ある意味運命的なのかもね。