映画やレコーディングでは、よく変な音が紛れ込むんだ。そう、お化けのささやきだ。
録音部を15年ほどやっているけど、現場で聞き取れた明確な幽霊の声(言葉)は、多分、二回くらいかな。
芥川の羅生門で子供の幽霊が出た!
川崎ヒロユキ監督の『羅生門』で録音部をやっていた時、飢餓で苦しむ町娘が、雑草を口に入れながら、
「飯、食いたい、食いたいよぉ」
と瀕死の状態で演技中のこと。
そこは防音の行き届いた地下にあるカラオケスナックにセットを組んでいるので、スタッフ以外の声は聞こえない。本番中だから、スタッフも声を出さない。迫真の演技に、スタッフも聞き入っている。
「食いたいよぉ・・・・」
囁くような小声の演技だ。
僕はショットガンマイクを近づけられるだけ近づけている。超ベテランの照明技師さんが、マイクが入りすぎないか睨んでいる。
「食いたいよぉ・・(子供の声:食いな!)」
その瞬間、僕の心臓はバクバクバクバク! 周囲を見渡すけど、防音のドアは締め切られ、子供なんていない。
監督のカットとOKの声がして、僕はレコーダーを停止する。
すぐに巻き戻して(言い方が古いなぁ)、問題の箇所を確認。
「食いな」
確かに入っている。
仲良しのカメラマン荒木ちゃんを呼んで、
「なんか出た気がする。11秒のところ」
業務ヘッドホンで聴く荒木ちゃん。
「あ、出ましたね。うん、出た出た」
と、あっけらかん。そう、映画の現場じゃ、よくあるのだ。
ちょっと生の音だとわかりにくいので、最新技術でノイズを除去してみたよ。
ノイズを除去してみたんだ。あれれ、女優の息遣いの直前に、男性の声っぽいのが聞こえてきたなぁ。