お袋の認知症とドグラマグラ

ボケ老人は、24時間関係なく、急に騒ぎ出すんだ。
夕べは午前3時くらいから
「家に帰りたい」(自宅なのに)
「鞄がない」(その鞄は10年前に捨てた)
「診察券と健康保険証がない」
「今日は病院は行かない」(通院日は来月)
「**おばあちゃんがいない」(25年前に死んだ)
「ここの家賃がもったいない」(持ち家なのに)
「もう嫌だ、一人暮らしをする」
「こんなはずじゃなかった」
「バターン、バターン(ドアに八つ当たり)」

これを朝まで繰り返すんだ。

ドグラマグラで語られている

お袋のボケ(痴呆症)は、いわゆる精神疾患でもあるんだけど、夢野久作の「ドグラマグラ」は、そういった精神疾患について、非常によく書かれている。現代医学は唯物論的に、ここにこういう疾患があるからこういう症状がある、という物質的な故障(疾患)で異常な症状が出るとされているんだけど、そういった目で確認できる原因を想定した治療になっている。
ところが、ボケお袋がなぜ「家賃がもったいない」とか「家に帰りたい」などと言い出すのかという直接的な答えを唯物論的に物質にだけ求めることには、無理がある。つまり、解剖学的に神経細胞を細切れにしていったところで、このシナプスが「家賃」という概念を仕舞っている所だ、なんて言えるかどうかが立証されていない。立証されていないにも係わらず、細胞単位に精神的な病気の原因を求めることの妥当性がないのだ。 そんなことがドグラマグラの非常に長い文章の中でとくとくと語られている。

理系知識、理系的思考訓練がないとドグラマグラは読めないのではないか

ドグラマグラを読破できるかどうか、読書好きの中でも別れるのではないだろうか。哲学用語と医学用語、理論物理の概念などがふんだんに使われているのがドグラマグラの特徴だろう。
ぼくはといえば、もともと超理科系なのと、高校の倫理社会の恩師が非常に優れたギリシャ哲学の研究者でもあって、哲学の基礎を叩き込まれていることもあって、ドグラマグラの専門用語に関しては何の苦労もなく理解できている。 さらに、古代インド哲学の物質(唯物的)と物質以外の魂という概念も盛り込まれている。
ただ、ロンブローゾに代表される、犯罪者の遺伝的影響という考え方も含まれていて、まぁ、執筆された当時の最先端の科学や犯罪学の要素も含まれている。

いずれにせよ、ドグラマグラにはボケ老人のボケの様相を考えるに当たっての、相当なるヒントが書かれている点に、僕は非常な興味を惹かれたんだな。

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