映画録音部の桜風さんですが、最近はすっかりFMラジオのディレクターとしてご満悦。
音の世界は非常に広く深く、写真の世界のように機材のバリエーションが豊富です。いや、カメラやレンズよりも種類が多いかもしれません。例えばバイオリン用マイクがあったり、人の声に特化したものがあったり、などなど。
インタビューマイクSHURE SM63(L/LB)
テレビでレポーターが握っている細長いマイクが、このSHURE SM63。実は3種類あって、レポーターが使っているのがロングタイプのSM63L(シャンパンゴールド色)かSM63LB(ブラック色)。普段は見かけないけど、短いタイプのSM63です。
こういうタイプのマイクを『ハンドマイク』って呼びます。カラオケ用マイクもハンドマイクです。手で握って使うタイプですね。実は、この『手で握る』というのが非常に高度な技術なんです。
マイクというのは、近くにある全ての音を拾います。ということは、手で握る音も拾います。こういうノイズを『ハンドノイズ』『ハンドリングノイズ』『握り音』と言います。もうお分かりだと思いますが、インタビューやボーカルが歌うときに使うマイクというのは、この握った時のハンドノイズが出ない構造になっています。実は、これがかなり高度です。
SM63は、細長いボディーの中に集音装置が宙づりになっていて、ボディーからの音を排除しているのです。ちなみに、カメラの上につけるマイクを握って使うと、ボソボソというハンドノイズが大きく入ります。でも、SM63はマイクの使い方を知らない人が使っても、ほとんどノイズが出ません。すごいですね。
そして、もう1つの特徴が、非常に頑丈だということです。他のメーカーのマイクの先っぽの網は金属製ですが、SM63は樹脂製です。ぶつけても落としても、普通はびくともしません。仕様では2mの高さから落としても壊れないそうです。このタフさが、プロの現場で選ばれる理由の1つでもあります。
音質はクリアで聞きやすい
SM63は、テレビやラジオのロケでは定番のマイクです。シェアは8割くらいあるんじゃないかなぁ。
人の声を明瞭に収録することを目的に作られているのも、このマイクの特徴です。どういうことかというと、マイクというのは、収録したい音源に応じて大きさや形状が異なります。例えばドラムの音を録るマイクで人の声は録りにくいということです。
- SM63には、人の声を綺麗に録るための仕組みが多数入っています。
- 人の声の周波数を明瞭に録る集音部
- マイクに息がかかった時の『吹かれノイズ・ポップノイズ』を軽減する構造
- 風切り音の軽減機能
- 電気ノイズからの防御機能
- これらが搭載されています。
さて、肝心の音質ですが、本当に人の声がクリアで聞き心地がいいです。歌手のためのボーカルマイクに比べると軽い感じです。軽いというのは、そうだなぁ、AMラジオの音は軽め、FMラジオの音は重厚って感じですかねぇ。本当はそんなに簡単じゃないですけどね。
これが屋外の雑踏の中で収録したラジオ用の音源です。音質はマイクとの距離で変わります。男性(僕)の声はマイクに近いので、ちょっとモコモコしています。女性の声はやや離れているので、自然な声ですね。ちょっと全体に変なモコモコの圧縮音になっているのは、DR-10Xのリミッターの影響だと思います。
通常は、低音部を切って収録(ローカット)するのですが、FMラジオ用の音源なので、あえてローカットせずに収録しています。ローカットするとテレビやラジオの音に近づきます。
聞きどころはもう1点、周囲の音がほとんど入っていないことです。初詣で賑わう会津若松の鶴ヶ城なので、周りには人がたくさんいるのと、冒頭にもちょっとだけ聞こえますが、アイスバーンになっている地面の足音が結構大きいのです。でも、このマイクは向けた人の声だけをクリアに拾っています。
人の声だけを自然に拾うのは、実は結構難しくて、映画の録音部が一番苦労することです。このマイクは、その難しいことが非常に楽にできます。ただし、映画ではマイクの写り込みができないので、このマイクで映画の音(声)を録ることはほとんどありません。そう、このマイクは画面に映り込む位置で使うことで、最適な声が録れるのです。
他のマイクとの違いは?
このSM63はダイナミックマイクという種類です。磁石とコイルでできているマイクです。マイクには、このダイナミックの他に、コンデンサーマイクというのがあります(本当はもっと種類があります)。コンデンサーマイクというのは、電源が必要なマイクで、高感度で自然の音や楽器の音を録るのに使われます。つまり、録音できる音域が広買ったり、小さな音を録ることができたります。でも、コンデンサーマイクというのは録音技師が常に調整することが求められるマイクです。マイクと口の距離や声の大きさ、声質に応じてボリューム調整をします。
でも、SM63は、そういった調整をせずとも、上のサンプルのようにクリアな声が録れます。実は、このサンプルはヘッドホンもせずに、つまり、観測せずに録音しています。マイク任せでこのくらい録れちゃうマイクなのです。
もし、これをコンデンサーマイクで同じように使うとしたら、オートゲイン機能(ボリュームの自動調整)で録ることになります。コンデンサーマイクは音域(周波数)が広いのですが、音量変化に弱く、急に大きな音が入ると割れてしまいます。そこで、ボリューム調整で一定の音圧(音の大きさ)にするのですが、それを自動で行うのがオートゲインです。でも、オートゲインを使うと、しゃべっていない時にボリュームが上がって周囲の音が大きく入ってきます。喋り出すとボリュームが絞られて周囲の音が小さくなります。これは良し悪しです。ラジオやテレビでは、周囲の音を聴かせる意図がなければ、雑音として手作業で消します。オートゲインだと、その作業が非常に面倒になります。
ですから、SM63が好まれるのは、実はボリューム固定でも、上のサンプルのように一定の音圧の声になるからです。
いつも持って歩くのがSM63だ
僕はカバンの中にいつもSM63が入れてあります。急にインタビューする時に使うのです。ロングタイプで124g、短いタイプで98gと非常に軽量です。ロングタイプは23.3cm、短いタイプは14.4cmです。